カテナチオとファンタジスタの復権
突然ながらW杯の話。ご多分に漏れず中毒患者のようにテレビに釘付け。そしてこの60数試合の観戦にさすがに疲労を覚え始める。あと数試合で終わる。という喜びと鬱。その両者の正反対の感情が日々交互に、そして次第に強烈に自分を襲い始めている。ぐっはーー、W杯終わったらどうなんだろ、自分(笑)。怖すぎる。という訳でいくつかの試合のレポートをここで(って長すぎ)。
準決勝フランス×ポルトガル
フランスの堅い守備ブロックをなかなか崩せないポルトガル。かなり守備重視の試合だ。ポルトガルはフィーゴやクリスチャーノ・ロナウドがいい突破をするのだが最後まで崩しきれない。パウレタがマークをはがしきれなかった。やはり思うのは、フランスは守備がベースのチームなのだ。ティュラム、ギャラス、マケレレ、ビエラ。といった黒人の強靭な身体能力とヨーロッパにおける伝統的な戦術眼を兼備した、サッカーにおける人種を超えた才能のリミックス。といったことに成功したチームなんだと思う。クラブチームではこういった実験というのは今まで多くなされてきたが、ナショナルチームでこの実験をここまで成功させたチームはいない、ということなんだろう。
98年の当時の優勝チームも守備のキャラクターが強かった。試合展開も相手の攻撃をボランチでフィルタリングし、最終ラインで確実に摘み取る。という、強さと巧さがあるDF陣が印象的だった。攻撃で言えばこの日のジダンにはかなりハードなマークがつき、彼独特の優雅なプレーはあまり見せることはなかった。よって両サイドのウィングもそれほど活躍できず。それに対してポルトガルがとにかく両サイドを根気よく押し込み続けた。が、やはりセンターフォワードの問題だ(右サイドのミゲルの負傷も痛かったが。しかしこの選手は素晴らしい)。もっと大型でポストワークに長けたアタッカーか、それともテクニックとスピードにアドバンテージをもつアタッカーがいればまたワンステップ上のチームになれるのだが。けれども個人的には非常に好印象が持てるチームだったと思う。
クリスチャーノ・ロナウドのスピードの快楽に釘づけになるし、フィーゴのボールタッチも素晴らしかった。それにデコのプレーヴィジョンも。決勝戦は正真正銘のジダンのラスト・ダンスになる。堅い守備から素早い展開でジダンにボールを預け、アンリがトドメを刺す。という展開に持ち込めるか。対するイタリア。このチームもまったく同様の個性のチームだ。フランスよりも白人主導の、より戦術重視のチームと言える。タレントの質としてはフランスなんだろう。まったく実力的には互角。というかこのカードはユーロ2000の決勝と全く同じだ。イタリアのリヴェンジとなるのか、それともジダンが「神」としてグラウンドを去るのか。というマッチになるんだろう。しかし彼のような正統派ゲームメイカーは絶滅に瀕していて、なおかつ彼が決勝まで残った。とても象徴的だと思う。
準決勝ドイツ×イタリア
ハードワーカーとボールプレイヤーとのバランス。ダイレクトプレー。そしてソリッドな守備。イタリアの特徴がよく出た準決勝のドイツ×イタリア戦だった。またリッピ監督の采配が悉く当たっている。ガットゥーゾ、ペロッタ、カモラネージ。という、攻守に汗かきが出来る選手をピルロとトッティの周囲にバランスよく配置しているのが印象的。特にペロッタ、カモラネージはスペースを見つけてはフリーランニングを繰り替えす。無尽蔵なスタミナ。そして彼らを巧く使うピルロとトッティのダイレクトのパスの応酬。
トッティはまるでボールを足ですくいとるようにワンタッチでコントロールし、前線に一気にパスを出す。この選手は本当に独特だ。決してゲームメイカーではない。リケルメやジダンのようなパッサーとは明らかに違う。彼らのようにボールをキープし、独特の間合いによって攻撃のペースダウンやスピードアップを自在に操る。といった印象は微塵もない。とにかくカウンタープレーに徹し、如何にして少ないボールタッチで試合を決めるか。というベクトルに技術が注がれている。
そして中盤の真ん中にいるピルロはどちらかと言うとリケルメやジダンのようなプレースタイルに近い。このゲームにおける彼は素晴らしかった。正確なミドルパスで攻撃をコントロールし、決勝点のアシストとなったノールックパスも痺れたね。ここでやはり重要なのはトッティやピルロといったパッサーの周囲にはガットゥーゾやペロッタがいる。ということだ。この点で日本代表は大きなミスを犯している。にしてもデル・ピエロのゴールが見れるなんて思わなかったな。いいもの見れたよ。
ベスト8 ドイツ×アルゼンチン
アルゼンチンの選手には玉際の強さを感じる。上背はあまりないがハードに体をぶつけてきて、きっちりと相手の体勢を崩すことを意識している。特にリケルメの後ろにいるマスケラーノのディフェンスは天才的。重心を低くし、間合いをつめながらここぞというタイミングで一気にかすめとる。彼だけではなく、カンビアッソやマキシ・ロドリゲスといったハードワーカーが揃い、彼らが中盤の底から前方のバイタルエリアまでをカバーしている。リケルメはルックスでかなり損をしているが(笑)、古典的かつロマンティックなボールプレイヤーで、ボールタッチの一つ一つに独特のリズムがある。彼がボールを触ることによってショートパスの軌跡は既視感を免れる。前半はこのボールキープの差が両チームの差として出ていた。
逆に後半はドイツの攻撃的な選手の投入で流れを引き寄せる。ボロウスキーとオドンコールで強引にサイドをこじあけ、クロスをねじ込んでいく。特にリケルメを下げた後はドイツの圧倒的な展開になってしまう。やはりサイドを繰り返し突くことによってマークがずれるし、アルゼンチンのタフなDFもFWにつききれない。そこでクローゼが見事に決める。GKの負傷もアルゼンチンにとってはかなり致命的だった。アイマールもメッシも投入できず。アルゼンチンは自慢の攻撃陣を出し切れないのは痛い。延長戦はアルゼンチンペースだったけど、決めきれず、PK戦になってしまう。個人的にはアルゼンチンを応援していたんだけど・・・すごく微妙な条件が重なり合わさってゲームの流れがアルゼンチンとドイツとの間を振り子のように往復した展開だったと思う。リケルメとカンビアッソの交代は良かったんだろうか(苦笑)。これはすごい難しい決断だったと思うけど。ただアルゼンチンとしてはここが分岐点になったような気がする。結果論だけどね。しかしなーーー、もっと見たかったよ、テベス、メッシ、サビオラ。
ベスト8 ポルトガル×イングランド ブラジル×フランス
やっぱポルトガルだ。このヨーロッパの辺境のチームこそ今大会のマイ・チームだ。ショートパスとドリブルを主体としたクラシカルなスタイルと情熱。これがあればいい。ブラジルには後者の情熱が足りなかった。ポルトガルのフィーゴは相変わらず足捌きは華麗。スピードはないが、彼がボールを触ることでチームとして攻撃の意志が覚醒する。これでデコが帰ってくるならば、より前線の創造性が上がるのは間違いない。イングランドは思考停止に陥っていた。今大会ずっと。チームのなかで誰よりも考えないといけない監督が思考を放棄している。そもそもの話、ウォルコットの選出は何かの悪い冗談以下だ。豪華なタレント陣は美しく統合することなく、ただひたすら愚鈍だった。
にしてもブラジルだ。アドリアーノを外すという判断はしょうがないと思う。あれだけボールを失い、運動量も少なかったのだから。ロナウドも運動量は大会当初から比べるとかなり上がったが、かなり細かく動かないとテュラムもギャラスも振り切れない。トラップもなかなか決まらず。アドリアーノ、カカ、ロナウド、ロナウジーニョの4人にこだわり過ぎた。前線の連動性、機能性という点ではなかなかスピードが上がらないし、特にロナウジーニョは常に窮屈そうだった。やはり彼を左のウィングに置く、というバルセロナの戦術は偉大な発明だったのだ。「史上最強チーム」は得てして敗れ去るもの。という、見事なサンプルになってしまったブラジル。やはり悲しい。アルゼンチンとともに悔いが残る敗退となってしまった。アルゼンチンに対しては今でもサビオラかメッシを入れていたら。という思いが残っている。未練がましく。ブラジルに対しても同様の未練がある。南米という「カオス」をいかにして統合させるのか。という非常に難しい問題を、パレイラもペケルマンも解決することが出来なかった。
フランスはジダンが素晴らしかった。独創的なボールコントロールとプレーヴィジョンで相手DFを凌駕。でもフランスは実はビエイラとアンリがフレッシュな状態で大会に臨めているのがいいんだと思う。しかしながら個人的にはポルトガルに勝って欲しい。そして決勝はポルトガルとイタリア。デコとマニシェのゴールでポルトガルの優勝(笑)。
ベスト16 ポルトガル×オランダ イングランド×エクアドル
テクニックだけではなく、駆け引き、狡猾さ、といった泥臭くも激しいゲームになったポルトガル×オランダ戦。素晴らしい試合になる。特にフィーゴ。この選手の狡猾な駆け引きで相手DFボルラースを退場に追い込んだ時、鳥肌が立った。クリスチャーノ・ロナウドを負傷退場させたDFに対してしっかりとリベンジをする。これでチームは盛り上がらない訳がない。
両チームとも似たタイプで、サイドアタックを中心とした攻撃的なスタイルのチームでかなり激しく打ち合った。オランダのロッベン、ファン・ペルシーのウィンガーは少なくとも二人を相手にドリブルが出来る。カイトがなかなか当たらなかったのは残念だが。それに対してポルトガルもテクニカルだが老獪さも備わったフィーゴ、パウレタ、そしてデコといった百戦錬磨の選手が素晴らしい働きをする。フィーゴはスピードはないが、柔らかいボールタッチと的確な状況判断で好機をつくる。デコもスペースを見つけパスを捌きつつも自らもスペースを突く動きが最高。得点シーンはポルトガルが右サイドをデコがえぐり、パウレタのポストのあと、ボランチのマニシェが決める。という、理想的なパターンだった。
この両チームの戦いを見ると、やはりサッカーは巧いだけじゃだめなんだ。と痛感する。日本には今回は相手を削る選手がほぼ皆無だったもん。中村や中田が削られた時、削り返す選手が誰もいない。というのは問題だ。そういった点においてはお子様のチームだったね、日本は。しかしポルトガルには痺れた。
その、ポルトガルと次回対戦するイングランドはエクアドルと対戦。エクアドルは南米3位のチームだけあって、守備がいいし、強豪チームとやり慣れている。といった印象。対するイングランドはなかなか攻撃が機能しない。ルーニーも孤立ぎみで、やはり彼のワントップは厳しいのでは。オーウェンがリタイアして前線の駒がしんどくなってしまった、イングランドは。この試合ではJ.コールはなかなかマークをはがし切れず、ランパードのミドルショットは決まらない。もはや彼は魔のサイクルにはまってしまったようだ。プレミアでの決定力を発揮できずにいる。
イングランドはやはり両サイドのベッカムとJ.コールが機能しないと厳しい。彼らが機能するためには前線で一度ポストワークが決まって、彼らが前を向いてボールを持てる時間をどれだけつくれるかにかかっている。が、ワントップでそれがなおかつルーニーとなると・・・次のポルトガル戦でどういうような布陣にするのか。エリクソン監督の采配次第のような気がする。
ベスト16 ブラジル×ガーナ
ブラジルはブラジルなのだ。試合の中で非常に波があり、ゲームにおける弛緩と緊張とを自在にコントロールする。そにしてもだ。セレソンのツートップは動かない。これでも予選よりはマシになったが。ロナウドもアドリアーノもくらげみたいにフィールドを力なく浮遊している。しかしながらカカやロナウジーニョにいい形でパスが入った瞬間、彼らは美味しい餌にありつくために、一気にギアをトップに入れる。一点目のロナウドのキックフェイントはさすが怪物。といった感じだ。スピードはそれほどない。が、確かなランニングコースと相手DFをブロックする、理にかなった体の使い方。隙がなく、最高の集中力をここぞという時に発揮し、最も正しい選択肢を選び取る。二点目のカウンターも素晴らしく、ここでもカカがからむ。今大会の彼は素晴らしいパフォーマンスだ。ロナウジーニョがおかげでちょっと厳しいが。しかしながら彼も確かなキープ、正確なパス、スペースを突くドリブル。と、高水準なパフォーマンスを続けている。今後の3試合にマジックを発揮して欲しい。にしてもアドリアーノだ。点は決めたが、ポストはまったく決まらず、ほとんど前を向いてプレーできなかった。彼らしい強引さも影を潜めている。次もスタメンで使うべきか。ジュニーニョを入れて中盤のマネージメントの質を上げ、ロナウジーニョを前線に上げたほうが健全なような気がする。
ベスト16 フランス×スペイン
ロナウドがコンディションを上げつつあるとなれば、ジダンも黙って入られない。ってところか。フランスはスペインを撃沈させ、ブラジルと対戦する。ジダンはあの大きな体を利用したボール捌きを何度ともなく魅せ、彼独特の優雅さを披露した。彼がボールを持つとフィールドに流れる時間が一瞬変わってしまったかのような錯覚を覚える。偉大だ。だからこそ、彼が終了間際に相手DFを切り返しで滑らせ、GKの逆を読みきったシュートには感動した。美しいボールタッチと的確な状況判断。それも勝負所になればなるほどブレがなくなる。というのがスペシャルな選手の条件である。そしてジダン以外にもビエイラやリベリ、そしてアンリといった選手が躍動し、スペインを押し込んでいった。初めはスペインのパスワークに圧倒されたが、次第にスピードに慣れるとフィジカルを前面に押し出し、攻撃を寸断してしまう。ビエイラ、マケレレ、ギャラス、そしてテュラム。といったフィジカルとクレバーさを併せ持ったDF陣は安定感抜群だ。スペインはもっと早くホアキンやルイス・ガルシアを機能させたかった。パスだけでは駄目だというのはフランスのリベリが証明した。彼のようなドリブラーがビエイラやジダンと融合すると、攻撃の質は上がる。スペインはシャビ、シャビ・アロンソ、セスク・ファブレガスとパッサーを揃えたが、ドリブラーがいなかった。それは日本と同様の、選手のセレクトにおける致命的ミスだ(小島)。








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