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2007年08月 アーカイブ

2007年08月11日

負の説得力

キム・ギドクの世界 ~野生もしくは贖罪の山羊~

もうだいぶ前だが、キム・ギドクの『鰐』をユーロスペースで観た。映画を観続けていく内にある一つの映画のことが頭からちらつき始める。レオス・カラックスの『ポンヌフの恋人』。そのまんまのフレームが使われている。ホームレスの恋人、橋が架けられている川辺の生活、そして疾走するバイク。そんな一つ一つのシーンをキム・ヒドクなりになぞっていく。しかしそれが単なる模倣ではなく、既存のフレーム内で何が出来るのか、という真摯な挑戦があって、その試みはなかなか面白い。

何故、単なる模倣と感じないでこの作品に見入ってしまうのか。それはこの監督が何とかフィルムの中に注ぎ込みたいと試行錯誤する、ぎこちなく不器用な愛情表現だったり、暴力に伴う痛みの表現だったりする。あの、主人公の男の表情に常に張り付いた、焦燥感や不機嫌さ。ひたすら殴られて苦悶を浮かべたり、豚足を振りかざしてチンピラ達に襲い掛かる瞬間の切れかかった情けない表情が堪らない(苦笑)。悲鳴、呻き、溜息。とにかく見ていて気分が悪くなる、見事な負の説得力がある。苦痛の表現や嫉妬や憎悪、束の間の愛と死。そういったものが参照された物語のフレームを見事に突破している(小島)。

2007年08月12日

ようこそ死の世界へ

ハワイ


森山大道さんの『ハワイ』をタカイシイギャラリーで見る。凄すぎる。最近の森山さんの作品はどちらかと言うとスタイリッシュでグラフィルカルなアプローチで撮られていたものが多かったと思うが、この『ハワイ』は違う。『ブエノスアイレス』を以前見たときとは全く異質のインパクトがある。

アルゼンチン・ブエノスアイレスにおける街や人々といった被写体と、森山大道との親和性は高かったのだと思う。が、ハワイとの親和性は全くと言っていいほどなく、逆に大きな反発となり、それが見事に作品に反映されている、としか思えない。何と言うか初期の『写真をさようなら』の方向にあるような、オブセッションや嫌悪感や憤りや何やらがざらついた粒子の中に凝縮されている。とにかく殺気が素晴らしい。一つ一つの素粒子の中に殺気が存在する。

椰子の木陰が不穏に伸び、それが海を覆ってしまうショット。どこに通じるのかさっぱりわからない、ひょっとしたらもはや戻ってくることが出来ないんじゃないかと思わせるようなハイウェイ。ほとんどどす黒い闇と化する海面で、かろうじてその存在感を訴えるさざ波。ハワイという楽園がどんどん黒く塗りつぶされ、死の世界と化していく(小島)。