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負の説得力

キム・ギドクの世界 ~野生もしくは贖罪の山羊~

もうだいぶ前だが、キム・ギドクの『鰐』をユーロスペースで観た。映画を観続けていく内にある一つの映画のことが頭からちらつき始める。レオス・カラックスの『ポンヌフの恋人』。そのまんまのフレームが使われている。ホームレスの恋人、橋が架けられている川辺の生活、そして疾走するバイク。そんな一つ一つのシーンをキム・ヒドクなりになぞっていく。しかしそれが単なる模倣ではなく、既存のフレーム内で何が出来るのか、という真摯な挑戦があって、その試みはなかなか面白い。

何故、単なる模倣と感じないでこの作品に見入ってしまうのか。それはこの監督が何とかフィルムの中に注ぎ込みたいと試行錯誤する、ぎこちなく不器用な愛情表現だったり、暴力に伴う痛みの表現だったりする。あの、主人公の男の表情に常に張り付いた、焦燥感や不機嫌さ。ひたすら殴られて苦悶を浮かべたり、豚足を振りかざしてチンピラ達に襲い掛かる瞬間の切れかかった情けない表情が堪らない(苦笑)。悲鳴、呻き、溜息。とにかく見ていて気分が悪くなる、見事な負の説得力がある。苦痛の表現や嫉妬や憎悪、束の間の愛と死。そういったものが参照された物語のフレームを見事に突破している(小島)。

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